はきだめにつる

▶ 22.06.21 日プS1関連エントリを下げました。今までご覧くださりありがとうございました。

舞台「パラノイア★サーカス」感想

 3月2日マチネを観劇しました。

 舞台『パラノイア★サーカス』は少年社中と東映の初のコラボプロジェクトらしく、東映特撮作品の出演者がキャストの多数を占めているのですが、なんといっても少年社中の主宰を務める演出・脚本家の毛利亘宏さんがスーパー戦隊シリーズ仮面ライダーシリーズの脚本をいくつも手掛けていたり、社中メンバーの井俣太良さんが『仮面ライダードライブ』へ出演していたりと、社中作品とニチアサをどちらも齧っている身からすると、なんとも満を持して感のあるコラボだったりします。


 パンフレットや随所のインタビューによると、この公演が旗揚げというか、“第一弾”であるような書き方がなされているので、第二弾、三弾と続いていくような息の長いプロジェクトになったら嬉しいです。



 
 社中作品のキービジュアルはどの作品も独特の色彩感が美しく、毎公演ビジュアルが出るのをとても楽しみにしているのですが、『パラノイア〜』に関しては完全にひとめぼれでした。タイムラインに流れてきた宣伝ビジュアルがあまりにも好みすぎて、負けたよ〜と思いながら流れるようにチケットを抑え、勢いだけで劇場に向かった覚えがあります。

 キービジュアルのみならず登場人物も最高なのですが、その素晴らしいビジュアルのなかでもとりわけ心を惹かれたのが顔の半分をゴールドの星型リボンで飾られたアルセーヌ・ルパン役、鈴木勝吾さんでした。好き……

https://youtu.be/9jZAPJdUfik


 キービジュアルを見て爆上がりしたわたしが劇場へ行く決定打となったのは、『パラノイア★サーカス』公式サイト、【キャスト一覧】の写真に施されたとある仕掛けでした。

 瞳を手で覆い隠した写真が一様に並ぶキャストビジュアルの、ひとりひとりの登場人物にカーソルを合わせると、手で覆い隠されていた瞳が静かに見開かれる。まるで、夢から覚醒するみたいに。


 「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」




 以下ネタバレです。







雑感

パラノイア★サーカス』―それは、孤島を本拠地とするサーカス団。
見世物は極上の『謎』。

奇妙奇天烈なパフォーマーたちは、謎に満ちた狂気と現実の境目を疾走する。
稀代の大怪盗『カイジン20面相』がパラノイア★サーカスから“あるもの”を盗み出した。
それは『謎』そのものだった。

謎は世界から消え去り、世界は音を立てて崩れ去っていく...。

だが、そこに立ち上がる男がいた。ただ彼は観客だった。
その観客は小説家に憧れ『物語』そのものを愛していた。
彼は依頼を受け、謎のなくなった世界の『謎』を取り戻していく。

消えかかる世界を守り抜くことができるのか?
カイジン20面相の正体は?!
パフォーマーたちの『パラノイア(妄想)』はステージの中で混ざり合い溶け合い、
現代の狂気を映し出す壮大なパノラマへと姿を変える。

 『パラノイア★サーカス』は、小説家の主人公が自ら生み出したキャラクターに翻弄され、やがて彼らによってその妄想世界を崩されていく、というストーリー。

 小澤亮太さん演じる江戸川乱歩を軸に、いくつもの仕込まれたミスリードが終盤に向かってひとつずつ解かれていくさまは見ていて痛快でした。


 サンシャイン劇場の板の上、縦横いっぱいに組まれたセットはリアルなサーカステントを連想させ、華やかな衣装と怪しげな照明を纏ったパフォーマーたちが舞台上をめまぐるしく行き交うさまは、サーカスのショー・パレードのような高揚感がありました。

 なにより口上が!「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」から始まり「パラノイアサーカス!!」で終わる一座の口上があるのですが、それが劇伴も相まってしびれるほど格好良かった!!


 ところどころに挟まれるギャグ(井俣さんのターン、毎公演やってると思うと凄すぎる!)やアドリブの安心感が凄まじく、アホの明智やナミコシ警部&ナカムラ刑事の存在が、次第に不穏さを増していく物語の清涼剤でした。



 最終的には張られた伏線をきれいに回収し、物語は大団円を迎えます。仮面ライダーシリーズの最終回のような後味は、この作品が東映コラボであることをふと思い出させてくれます。DVDには後日談が収録されるそうです。買うしかない!




 妄想の世界から一度は脱却したはずの主人公が『パラノイア★サーカス』一座に回帰するのは、視点を変えればバッドエンドのようであったり、ハッピーエンドの根底には不穏さが見え隠れしていたり、思うところのある終幕だったのですが、それも含めて「極上の謎」ということで。







登場人物について

江戸川乱歩(演・小澤亮太


 ストーリーテラーと思いきや、謎の中核を担う江戸川乱歩

 物語にも登場人物たちにも翻弄され、苦悩する場面が非常に多い印象。前半の矢継ぎ早にセリフをまくしたてるシーンは圧巻でした。小澤さんの静と動のメリハリの付け方が見ていて非常に気持ちよかったです。

 鈴木さん演じる金ぴかルパンとの殺陣がかっこよすぎる!小澤さんの代表作・ゴーカイレッドを彷彿とさせる回し蹴りを生で拝見できて嬉しかったです。(当方はゴーカイジャーが大好きです)



コバヤシ少年(演・松田凌


宵の明星、家路を急ぐわらべが笑う!(ばきゅーん)

 観客に一番近い目線を持つであろうコバヤシ少年。

 松田凌くん、身のこなしがしょうがくごねんせい…………。あちこち跳びはねるので、羽織った上着がひらひらひらひら、白のハイソックスとともに視界を揺らすので目の毒でした。


 「退屈な日常から脱却したい」と願ってやまないコバヤシ少年。終盤、物語を終わらせまいと、脱却したかったはずの日常を取り戻すべく、何度も“やり直し”を繰り返すシーンが印象的でした。

 物語の始まりの台詞から、もう一度やり直そう──
 何度も何度もやり直しを繰り返すたび、コバヤシ少年の台詞には次第に嗚咽が混じり、言葉尻が崩れて消えてしまいそうで切なくて、『パラノイア★サーカスの妄想世界を終わらせたくないコバヤシ少年』と、舞台をまだ観ていたい観客の感情が、“やり直し”のたびに共鳴しているようでした。



アルセーヌ・ルパン(演・鈴木勝吾)


 ルパン様のどんでん返し!

 キャスト一覧のビジュアルに近いルパンを密かに期待していたら、舞台上には頭のてっぺんから爪先まで金ぴかのアルセーヌ・ルパンがいて度肝を抜かれました。おまけに舌は緑。癖が強いんじゃ~~~

 殺陣で翻るマントと、カーテンコールのお辞儀で恭しくシルクハットを抑える仕草がまさに黄金紳士降臨という感じで大好きです。立ち回りや佇まいが天下一品、シニカルに主人公を翻弄する掴み所のないアルセーヌ・ルパン、最高でした。声が通る通る!

 現れては場(と江戸川乱歩)を翻弄して去っていく、道化のようでかなりのキーマンで、物語のジョーカー的存在。

 仕込みステッキを両手で構えたときの表情が素敵すぎたので、DVDではどうにかアップにしていただきたいです。






 パンフレットと舞台衣装でほとんどの登場人物がマイナーチェンジをしている中で、イン獣だけまったく互換性のない衣装(パンフやビジュアルではモダンガール風の女性/舞台衣装は獣の着ぐるみ)をしているのが引っかかっていたのですが、それも結末を知るとなるほど~~!というアハ体験。

 サーカス団の口上「恨みつらみも、心の本に書き記す」もしっくりきた。これを踏まえてもう一度観たい!