舞台「新・幕末純情伝」感想
徳川260年の泰平の世が、今まさに崩壊せんとしている文久3年。
武士になりたい一身で、京都への道を急ぐ一群の男達がいる。
近藤勇率いる、新撰組。
その隊士の中に「女」がいた。沖田総司。
小さい頃から男として育てられ、
ただひたすら剣の修行を強いられてきた孤独な女――。
風雲急を告げる、時は幕末。
勤皇、佐幕が入り乱れる動乱の京の街で、
総司は愛する土方歳三のため、
一人、また一人と勤皇の志士たちを斬り続ける。
そして、そんな総司の前に、一人の男が立ちふさがった。
その男こそ、日本に新しい時代をもたらす男。土佐の龍、坂本龍馬――。
裏切りと憎悪渦巻く暗黒の時代、
総司と土方、そして龍馬の胸を焦がす、熱い恋の行方とは?
そして、勝海舟、桂小五郎・・・ 幕末の若き志士たちが夢見た、
新しい時代の夜明けとは?
全33公演お疲れ様でした!
おそろしく近かった。距離的にも、なんというか精神的にも。
役者さんたちのあらゆる体液が舞台上に散り、降り注ぐ弾幕のごとく台詞が飛び交う。息つくまもなく展開していく掛け合いはまるで銃撃戦のようで、舞台上の彼らはフィクションの世界を生きているはずなのに、どこまでもリアルに届いた。
紀伊國屋ホールに入った瞬間、ひりつくような緊張感が充満していた。ものすごい熱量に圧倒され続け、ハイレベルな芝居の応酬に釘付けになった二時間でした。
「新・幕末~」は初見だったのですが、沖田総司役の松井玲奈ちゃん、坂本龍馬役の石田明さんがめちゃくちゃハマっていたので、またこの二人のタッグを観てみたい。
以下キャスト別雑感。
盛大にネタバレしてます。
沖田総司(演・松井玲奈)
メインビジュアルですでにハマり役の予感がビンビンしていた玲奈ちゃんの沖田総司、本当にハマり役だと思った。
男所帯に華奢で目元の涼しい美人。土方さんが嫉妬に狂ってしまうのもわかる。
海舟に始まり、土方・桂・坂本と、彼女を翻弄する男たちと対等に渡り合う胆力。石田さんを始め、舞台慣れしている役者陣にこれでもかと食らいついていく玲奈ちゃん。彼女の熱い気概を感じた。
常に気を張って男たちの世界で生きている「沖田総司」と、舞台上の玲奈ちゃんがリンクして、真剣勝負の緊張感が作り出されていたのかも。
北出菜々さんの曲をバックにバッサバッサと男たちを斬り捨てていく総司はとてつもなくヒロイックで綺麗。
ふとした仕草が凛としていて品があり、終盤に明かされる総司の背景に説得力があった。
龍馬とのシーンで胡座掻いてるとこ、めちゃくちゃ好きです。育ちのいいお嬢さんがわざと不良ぶってる(なりきれてない)ような感じ。
総司を取り巻く男たちの印象が機関銃なら、彼女の印象は舞台の真ん中に凛と突き刺さっていた妖刀菊一文字だと思う。刺すような視線の気高さと、まっすぐ通った芯を持つ沖田総司。
前半の総司はひたすらに無垢でまっさら。海舟の元で男として育てられ、齟齬を感じながらもそれに従い、血豆だらけの手で剣を握る幼少期。
家を飛び出し、新撰組に身を寄せるも、彼らに促されるまま、人斬りとして名をあげていく。
総司は物事の分別がついていない、自我が赤ちゃん同然の少女。彼女は自らを導く人々へ依存し、その姿をしなやかに変える。それは男の姿だったり、人斬りの姿だったりする。
そんな中、総司は龍馬と出会い、女としての自我の目覚めを迎える。無垢なまま身体だけ女になってしまった彼女に、生まれて初めての、身を焦がすような恋が訪れた。
序盤の、男として振舞いながらも時折見せる乙女な素振りが絶妙に可愛い。
キャンキャン吠えるチワワみたいに龍馬へと突っかかっていくシーン、めちゃくちゃ萌えました。これ!少女漫画で履修したやつ!
後半、心の拠り所であった新撰組から手酷く裏切られ、諦観とも失望ともつかない表情で決別するシーンが印象深い。
「新撰組のみんなだけが労咳持ちの自分に優しくしてくれたのだ」とサブリミナルのように台詞が入るだけに、総司の悲痛さが伝わってきた。
運命に翻弄され、傷つきながらも強かに生き抜いた松井沖田の姿は美しく逞しい。
ああ~~~龍馬と土佐の月見て仮初めでも幸せになってほしかったんじゃあ~~~~~~
坂本龍馬(演・石田明)
ノンスタ石田さんのお芝居、初見だったのですが今回目の当たりにして圧倒されました。流石の滑舌!台詞量が出演者の中でもダントツで、発した言葉のほとんどが長台詞だった気がする。
次々紡がれていく膨大な台詞が、収まり良く耳に馴染んでいく。期待を何倍も上回る巧みさで、最高の坂本龍馬像を作り上げていた。
♪コーゴーエソーナキセーーツーニキーミハーーーアーイーヲドーコーユーノーーーー?の登場シーンが最高にお気に入り!以蔵のエアギターも含めて腹抱えて笑った。
土佐弁の似合う男ってずるい。リアコになりそうな気持ちを必死に抑えながら観ていた。
チャラくて変態で、コミカルな坂本龍馬なのだけど、その実誰よりも真剣に世の中のことを考えている。顔面から体液という体液を撒き散らし、血走る目で必死に訴える姿が最高にかっこよかった。気取っていなくて、血の通った坂本龍馬。台詞が淀みなく流れすぎて、どこまでアドリブでどこまで脚本なのか判別がつかなかった。
「一発やらせろ~~!」が高らかで卑猥さがなく、クネクネと総司に迫る様がなんだかやけにデジャブると思っていたら、「シティーハンター」の冴羽獠でした。
玲奈ちゃんの造形が作り物じみているので、石田さんの等身大なリアルさとのバランスが絶妙だった。石田さんの龍馬もかなりハマり役でした。
多才な方なんだなあ。石田さんの他の芝居も観てみたくなった!
土方歳三(演・細貝圭)
岡村舞台常連の圭ちゃん。良い人からのクズ男がハマりすぎる。前半後半の落差が凄い。
土方の原動力も「嫉妬」だ…しかし土方の嫉妬は「純粋」でもある。つまり様々な「嫉妬」が比較されながら起点になる。30代前半で直木賞作家になり40過ぎた頃に書きつけた取り巻く「環境」や「心情」を思うと、偉くなると「悩み」も変わるんだな〜と考えてしまう…が、意外と世間では普通にある話だ
— 岡村俊一 (@okamurashunichi) 2016年7月14日
岡村さんが「男の嫉妬」がテーマのひとつだとツイートしていたけど、嫉妬というより卑屈さや劣等感を感じた。土方・海舟
・桂と三者三様、出自や身体機能に欠損を抱えている。
この作品に登場する男性全員が地雷のようなもので、それを目に見える形でわかりやすく爆発させたのは土方さんだった。
「総司の一番も二番も三番も俺じゃないと駄目だ!」と年下の女の子にすがりつく姿が情けない。
でもこういう男に絆されてしまう女の子、絶対にいるよね。情けなくて卑屈で打算的で、愚かな男なのである。
ディズニーランドに週5で連れてってくれるカレシ、サイコーだと思うけど総司的にはだめなの?!
嫉妬や出自に起因する自信のなさで卑屈になっていく土方さん。
結核持ちの総司に対して放つ、「キスなんかできるかよ!」のシーンの表情が少しのきっかけで崩れてしまいそうで危うくて、後悔や憎悪、嫉妬や慕情がぐちゃぐちゃに入り交じって、なんとも言えなくて好き、だけど切ない。
わたしは土方さんと総司にだって幸せになってほしかったよ……。
新撰組は、新時代に生き延びて出世することを何よりの悲願としている。「総司を愛している」という土方さんの言葉も、紛れもなく本心だと信じたい。愛する総司と自らの悲願を天秤にかけ、彼が葛藤の末に選んだのは悲願の成就。
総司が一度は夢見た土方さんとの終生を、これでもかと突き放して壊していく。手段がドクズ極まりないので悪役じみているけれど、勧善懲悪の物語ではないからこそ、新撰組にも正義があり、彼らが生き延びたいと思うのもまた必然なので辛かった。
若手俳優、みんな大きいから忘れてたけど、玲奈ちゃんと向き合うと圭ちゃんやたら大きく見えてびっくりした。
ココアネタもうよくない?玲奈ちゃん枠のチケだったからか周り玲奈オタばっかりだったんだけど、周りにたぶんココアネタ通じてなくて、わたしひとりで一生ゲラってて辛かった。
桂小五郎(演・味方良介)
味方さんの桂は錯乱一歩手前の狂気を、理性で抑えて常人ぶっている感じ。
桂さん、全編に渡っておいしい役だとおもう。熱演。
岡村さん演出だから絶対どっかでテニミュネタぶっこんで来ると思ってたよ。石田さんが素でフォロー入れてくれるのめちゃくちゃ笑ったし、周りの席の玲奈オタにはテニミュネタ通じてなくて全員真顔だった。正直同情した。
勝海舟(演・荒井敦史)
新・幕末に荒井くん出てるのノーチェックで、あれ?!出てる?!?!ってなった登場シーン。
舞台上での存在感がピカイチ。「幕末純情伝」勝海舟役・史上最年少とは思えないほど貫禄の演技。
声のトーンが他の出演者と被らず、安定感があった。掛け合いや立ち回りに色気があり、表情の端々に狂気を覗かせる。
苛烈なキャラクターではないのに目の奥がギラギラと燻っていて、彼が舞台に立つと、雰囲気がぐっと引き締まるのを感じた。
海舟の劣等感は総司を狂わせ、また自らも総司に狂わされていく、宿命の兄妹。
岩倉具視に尻をロックオンされるわ、坂本からも「岩倉に尻を差し出してくれ!」って懇願されるわで勝さん前途多難すぎる。無血開城は成功しても勝さんのケツは出血不可避。
岡田以蔵(演・早乙女友貴)
ずば抜けて身のこなしが美しかった。殺陣レベチすぎるでしょ?!と思ったけど人斬り役だったなあ。納得。9月のつむ鴨も楽しみです。
龍馬との名コンビ、名サポーター。WHITE BREATHのノリノリエアギター本当に大好き!
台詞回しが独特で前半はかなりハラハラしたけど、後半ぞっとするほどかっちりハマる。
物語上の立ち位置も独特だった。総司と関係を持つ男性陣の中で、唯一見返りを求めず無償の愛を彼女に与え続ける以蔵。以蔵は自らの悲願を見届け、満足げに息絶える。切なすぎる。
新撰組vs総司の対峙シーンの久保田創さんの迫力が鬼のようだった。自らが人斬りとして祀り上げた少女を踏み台にし、生き延びようとする愚かさ。生きることへの強い執念。飛び散る唾と表情に圧倒されました。
始まる前からなにかと話題になっていたけれど、心底観てよかったと思える作品に出会えて幸せでした。
玲奈ちゃんの総司と石田さんの龍馬はきっと伝説になる。
同じ座組で数年後に再演してほしい。
そしてまたこの緊張感と衝撃を味わいたい!