はきだめにつる

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朗読劇「ラヴ・レターズ 2015 WINTER SPECIAL」(久保田悠来×映美くらら)感想

「ラヴ・レターズ~2016 The Climax Special~」(青木玄徳さん&遠藤久美子さん)の観劇中、昨年観た久保田悠来さん&映美くららさん版のフラッシュバックが止まらなかったので、記憶の整理をかねて記事を分けることにしました。


►青木さん×遠藤さん版の感想


※この記事は「ラヴ・レターズ 2015 WINTER SPECIAL」についての備忘録です※






■STORY

幼馴染のアンディーとメリッサ。
自由奔放で感覚人間のメリッサ。
真面目でいつも何かを書いているアンディー。
思春期を迎えて彼らは一番近い異性としてお互い十分相手を意識しはじめる。
しかし、ついに決定的に結ばれるチャンスを迎えた夜
二人は友達以上にはなれない自分たちを発見する。
大学を出た二人はそれぞれ結婚し、まったく別の道を歩き始める。
海軍を経て法曹界に入り上院議員まで登りつめるアンディー。
アートの道に進んだものの行き詰まって精神的破綻をきたすメリッサ。
久しぶりに再会した二人は別々に過ごした日々を取り戻すかのように、
お互いを激しく求め合う。
しかし結ばれるには、時は余りにも遅すぎた。


 2015年初冬、ブルーシアターが現在の「Zeppブルーシアター六本木」へと改称し、そのオープニング公演のひとつがこの「ラヴ・レターズ」だった。

ライブ・エンタテインメント8社が共同運営!「Zeppブルーシアター六本木」来年1月オープン。 | エンタステージ

もともとはPARCO劇場で長年上演されている作品で、わたしが観劇したのはどうやら443公演目に当たるらしく、*1少し身構えたのを覚えている。



広いステージの中央に丸くて小さなテーブルがあり、それを挟んで椅子が二つ。
とてもシンプルな舞台装置。アンディーとメリッサを演じる二人はそこに腰掛け、彼らの手紙のやり取りをわたしたちに明かしてくれる。

演者の声、表情、台本のページを繰る音だけで表現される、二人の一生を通したやりとり。少年期からやがて青年へ、そして晩年へ。
二人のやりとりは一方が欠けてしまうまで続いていく。


静謐さすら感じる空気の中、ただただ圧倒された。
あるときは微笑ましく、あるときは激情的に、声と表情のみで紡がれていく物語。


そこそこ長いおたく人生の中でも「他人の一生」を演じる俳優さん・女優さんを見る機会というのはそう多くないので、とても貴重な体験になった。




久保田さん演じるアンディーは、ぶっきらぼうでまっすぐで、幼馴染みのメリッサに淡い初恋を抱いている。彼女が他の男の子と親しくしていたことを知るとむくれてしまうような可愛らしい少年。
真面目だけど、どこかやんちゃで年相応。彼の持ちうる精一杯で、メリッサに「愛を込めて」手紙を書いていた少年期のアンディー。


一方、映美さん演じるメリッサは、奔放で勝ち気で気まぐれで、アンディーよりずうっと上手。アンディーを軽くあしらい、“ワルイコト”に憧れる年頃の女の子。

やがて二人は成長し、すれ違い、それぞれ別のパートナーと結ばれる。中盤はお互いによる幸せ自慢と見栄の張り合いが展開される。


出世を経て分別のついた大人となってゆくアンディー。保身からメリッサを避け、体裁ばかりを気にかける。一方、アートの世界で成功を収めたものの、ドラッグやアルコールに溺れ、精神的に壊れてしまうメリッサ。晩年はアンディーに依存する。

結ばれたと思えばすれ違い、それを重ねてきた二人の一生。そんな彼らの関係は、メリッサの死によって幕引きを迎える。

メリッサの訃報を受けたアンディーは、最後の「ラヴ・レター」をしたためる。二人で紡いできたやり取りが事切れる瞬間、綴られるアンディーのモノローグ。
メリッサの命の灯火が消えゆくさまと重なるように、彼らを照らしていたスポットライトが静かにフェードアウトする。

アンディーは半身であるメリッサを喪った慟哭とともに、メリッサへの積年の想いを吐露する。声を詰まらせ、それを繕いながら、後悔に涙するアンディー。
わたしは大人の男の人が泣くのを見たことがない。だけど、こんなふうに感情を押し殺し、繕いながら泣くのだろうと思った。

メリッサとの手紙のやりとりが、アンディーの行く先に灯る光であったことをわたしたちは知る。


「手紙は自分自身なのだ」としばしば口にしていたアンディー。それなら、届けるあてを失った「手紙」は、いったいどこへ行き着くのだろう。




終演後に演出家の青井陽治さんを交えたアフタートークがあったのだけど、アンディーの一生を演じきって喉を枯らしてしまった久保田さんが印象的でした。
いつも飄々としている人だから、そんな瞬間に立ち合えることが幸福だと思った。


前半はコミカルで、股間が肉離れ!」みたいな台詞を生き生きと演じていた動の芝居。後半、ぐっと低いトーンで大人になったことを感じさせる静の芝居。地位や体裁・プライドに縛られ、公私ともに成功していて傍目には幸せそうなのに、どこか閉塞感のある晩年。そして終盤のモノローグへ。幾重にも色を変えて展開される彼の芝居に引き込まれた。


久保田さんが演じたアンディーの一生を、きっとこの先も思い出すことだろう。


ハッピーエンドの幕引きではないけれど、心地のよい残響がしばらく残る作品でした。


お手紙を出そう!と書き出し始めると、書きたいことがたくさんありすぎてまとまらないので手紙は苦手なのだけど、どうしても「親愛なる」から始まる手紙を書きたくて、観劇後はなが~~~~い手紙を書いた思い出。

*1:初演カップルは役所広司さん・大竹しのぶさん