はきだめにつる

▶ 22.06.21 日プS1関連エントリを下げました。今までご覧くださりありがとうございました。

舞台「新・幕末純情伝」感想



徳川260年の泰平の世が、今まさに崩壊せんとしている文久3年。
武士になりたい一身で、京都への道を急ぐ一群の男達がいる。
近藤勇率いる、新撰組
その隊士の中に「女」がいた。沖田総司
小さい頃から男として育てられ、
ただひたすら剣の修行を強いられてきた孤独な女――。
風雲急を告げる、時は幕末。
勤皇、佐幕が入り乱れる動乱の京の街で、
総司は愛する土方歳三のため、
一人、また一人と勤皇の志士たちを斬り続ける。
そして、そんな総司の前に、一人の男が立ちふさがった。
その男こそ、日本に新しい時代をもたらす男。土佐の龍、坂本龍馬――。
裏切りと憎悪渦巻く暗黒の時代、
総司と土方、そして龍馬の胸を焦がす、熱い恋の行方とは?
そして、勝海舟桂小五郎・・・ 幕末の若き志士たちが夢見た、
新しい時代の夜明けとは?

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全33公演お疲れ様でした!

おそろしく近かった。距離的にも、なんというか精神的にも。

役者さんたちのあらゆる体液が舞台上に散り、降り注ぐ弾幕のごとく台詞が飛び交う。息つくまもなく展開していく掛け合いはまるで銃撃戦のようで、舞台上の彼らはフィクションの世界を生きているはずなのに、どこまでもリアルに届いた。

紀伊國屋ホールに入った瞬間、ひりつくような緊張感が充満していた。ものすごい熱量に圧倒され続け、ハイレベルな芝居の応酬に釘付けになった二時間でした。

「新・幕末~」は初見だったのですが、沖田総司役の松井玲奈ちゃん、坂本龍馬役の石田明さんがめちゃくちゃハマっていたので、またこの二人のタッグを観てみたい。






以下キャスト別雑感。
盛大にネタバレしてます。




沖田総司(演・松井玲奈)

メインビジュアルですでにハマり役の予感がビンビンしていた玲奈ちゃんの沖田総司、本当にハマり役だと思った。
男所帯に華奢で目元の涼しい美人。土方さんが嫉妬に狂ってしまうのもわかる。

海舟に始まり、土方・桂・坂本と、彼女を翻弄する男たちと対等に渡り合う胆力。石田さんを始め、舞台慣れしている役者陣にこれでもかと食らいついていく玲奈ちゃん。彼女の熱い気概を感じた。

常に気を張って男たちの世界で生きている「沖田総司」と、舞台上の玲奈ちゃんがリンクして、真剣勝負の緊張感が作り出されていたのかも。
北出菜々さんの曲をバックにバッサバッサと男たちを斬り捨てていく総司はとてつもなくヒロイックで綺麗。

ふとした仕草が凛としていて品があり、終盤に明かされる総司の背景に説得力があった。
龍馬とのシーンで胡座掻いてるとこ、めちゃくちゃ好きです。育ちのいいお嬢さんがわざと不良ぶってる(なりきれてない)ような感じ。

総司を取り巻く男たちの印象が機関銃なら、彼女の印象は舞台の真ん中に凛と突き刺さっていた妖刀菊一文字だと思う。刺すような視線の気高さと、まっすぐ通った芯を持つ沖田総司

前半の総司はひたすらに無垢でまっさら。海舟の元で男として育てられ、齟齬を感じながらもそれに従い、血豆だらけの手で剣を握る幼少期。
家を飛び出し、新撰組に身を寄せるも、彼らに促されるまま、人斬りとして名をあげていく。

総司は物事の分別がついていない、自我が赤ちゃん同然の少女。彼女は自らを導く人々へ依存し、その姿をしなやかに変える。それは男の姿だったり、人斬りの姿だったりする。

そんな中、総司は龍馬と出会い、女としての自我の目覚めを迎える。無垢なまま身体だけ女になってしまった彼女に、生まれて初めての、身を焦がすような恋が訪れた。


序盤の、男として振舞いながらも時折見せる乙女な素振りが絶妙に可愛い。
キャンキャン吠えるチワワみたいに龍馬へと突っかかっていくシーン、めちゃくちゃ萌えました。これ!少女漫画で履修したやつ!

後半、心の拠り所であった新撰組から手酷く裏切られ、諦観とも失望ともつかない表情で決別するシーンが印象深い。

新撰組のみんなだけが労咳持ちの自分に優しくしてくれたのだ」とサブリミナルのように台詞が入るだけに、総司の悲痛さが伝わってきた。

運命に翻弄され、傷つきながらも強かに生き抜いた松井沖田の姿は美しく逞しい。
ああ~~~龍馬と土佐の月見て仮初めでも幸せになってほしかったんじゃあ~~~~~~



坂本龍馬(演・石田明)

ノンスタ石田さんのお芝居、初見だったのですが今回目の当たりにして圧倒されました。流石の滑舌!台詞量が出演者の中でもダントツで、発した言葉のほとんどが長台詞だった気がする。
次々紡がれていく膨大な台詞が、収まり良く耳に馴染んでいく。期待を何倍も上回る巧みさで、最高の坂本龍馬像を作り上げていた。

♪コーゴーエソーナキセーーツーニキーミハーーーアーイーヲドーコーユーノーーーー?の登場シーンが最高にお気に入り!以蔵のエアギターも含めて腹抱えて笑った。

土佐弁の似合う男ってずるい。リアコになりそうな気持ちを必死に抑えながら観ていた。
チャラくて変態で、コミカルな坂本龍馬なのだけど、その実誰よりも真剣に世の中のことを考えている。顔面から体液という体液を撒き散らし、血走る目で必死に訴える姿が最高にかっこよかった。気取っていなくて、血の通った坂本龍馬。台詞が淀みなく流れすぎて、どこまでアドリブでどこまで脚本なのか判別がつかなかった。

「一発やらせろ~~!」が高らかで卑猥さがなく、クネクネと総司に迫る様がなんだかやけにデジャブると思っていたら、「シティーハンター」の冴羽獠でした。

玲奈ちゃんの造形が作り物じみているので、石田さんの等身大なリアルさとのバランスが絶妙だった。石田さんの龍馬もかなりハマり役でした。
多才な方なんだなあ。石田さんの他の芝居も観てみたくなった!


土方歳三(演・細貝圭)

岡村舞台常連の圭ちゃん。良い人からのクズ男がハマりすぎる。前半後半の落差が凄い。

岡村さんが「男の嫉妬」がテーマのひとつだとツイートしていたけど、嫉妬というより卑屈さや劣等感を感じた。土方・海舟
・桂と三者三様、出自や身体機能に欠損を抱えている。

この作品に登場する男性全員が地雷のようなもので、それを目に見える形でわかりやすく爆発させたのは土方さんだった。
「総司の一番も二番も三番も俺じゃないと駄目だ!」と年下の女の子にすがりつく姿が情けない。

でもこういう男に絆されてしまう女の子、絶対にいるよね。情けなくて卑屈で打算的で、愚かな男なのである。

ディズニーランドに週5で連れてってくれるカレシ、サイコーだと思うけど総司的にはだめなの?!

嫉妬や出自に起因する自信のなさで卑屈になっていく土方さん。
結核持ちの総司に対して放つ、「キスなんかできるかよ!」のシーンの表情が少しのきっかけで崩れてしまいそうで危うくて、後悔や憎悪、嫉妬や慕情がぐちゃぐちゃに入り交じって、なんとも言えなくて好き、だけど切ない。
わたしは土方さんと総司にだって幸せになってほしかったよ……。

新撰組は、新時代に生き延びて出世することを何よりの悲願としている。「総司を愛している」という土方さんの言葉も、紛れもなく本心だと信じたい。愛する総司と自らの悲願を天秤にかけ、彼が葛藤の末に選んだのは悲願の成就。

総司が一度は夢見た土方さんとの終生を、これでもかと突き放して壊していく。手段がドクズ極まりないので悪役じみているけれど、勧善懲悪の物語ではないからこそ、新撰組にも正義があり、彼らが生き延びたいと思うのもまた必然なので辛かった。

若手俳優、みんな大きいから忘れてたけど、玲奈ちゃんと向き合うと圭ちゃんやたら大きく見えてびっくりした。
ココアネタもうよくない?玲奈ちゃん枠のチケだったからか周り玲奈オタばっかりだったんだけど、周りにたぶんココアネタ通じてなくて、わたしひとりで一生ゲラってて辛かった。


桂小五郎(演・味方良介)

味方さんの桂は錯乱一歩手前の狂気を、理性で抑えて常人ぶっている感じ。
桂さん、全編に渡っておいしい役だとおもう。熱演。

岡村さん演出だから絶対どっかでテニミュネタぶっこんで来ると思ってたよ。石田さんが素でフォロー入れてくれるのめちゃくちゃ笑ったし、周りの席の玲奈オタにはテニミュネタ通じてなくて全員真顔だった。正直同情した。


勝海舟(演・荒井敦史)

新・幕末に荒井くん出てるのノーチェックで、あれ?!出てる?!?!ってなった登場シーン。

舞台上での存在感がピカイチ。「幕末純情伝」勝海舟役・史上最年少とは思えないほど貫禄の演技。
声のトーンが他の出演者と被らず、安定感があった。掛け合いや立ち回りに色気があり、表情の端々に狂気を覗かせる。

苛烈なキャラクターではないのに目の奥がギラギラと燻っていて、彼が舞台に立つと、雰囲気がぐっと引き締まるのを感じた。

海舟の劣等感は総司を狂わせ、また自らも総司に狂わされていく、宿命の兄妹。

岩倉具視に尻をロックオンされるわ、坂本からも「岩倉に尻を差し出してくれ!」って懇願されるわで勝さん前途多難すぎる。無血開城は成功しても勝さんのケツは出血不可避。


岡田以蔵(演・早乙女友貴)

ずば抜けて身のこなしが美しかった。殺陣レベチすぎるでしょ?!と思ったけど人斬り役だったなあ。納得。9月のつむ鴨も楽しみです。
龍馬との名コンビ、名サポーター。WHITE BREATHのノリノリエアギター本当に大好き!

台詞回しが独特で前半はかなりハラハラしたけど、後半ぞっとするほどかっちりハマる。
物語上の立ち位置も独特だった。総司と関係を持つ男性陣の中で、唯一見返りを求めず無償の愛を彼女に与え続ける以蔵。以蔵は自らの悲願を見届け、満足げに息絶える。切なすぎる。





新撰組vs総司の対峙シーンの久保田創さんの迫力が鬼のようだった。自らが人斬りとして祀り上げた少女を踏み台にし、生き延びようとする愚かさ。生きることへの強い執念。飛び散る唾と表情に圧倒されました。


始まる前からなにかと話題になっていたけれど、心底観てよかったと思える作品に出会えて幸せでした。
玲奈ちゃんの総司と石田さんの龍馬はきっと伝説になる。

同じ座組で数年後に再演してほしい。
そしてまたこの緊張感と衝撃を味わいたい!

朗読劇「ラヴ・レターズ~2016 The Climax Special~」(青木玄徳×遠藤久美子)感想

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「ラヴ・レターズ~2016 The Climax Special~」
青木玄徳さん&遠藤久美子さん)
観劇してきました。

ラヴ・レターズ〜2016 The Climax Special〜

「ラヴ・レターズ」の本拠地PARCO劇場で上演されるということで、かなり楽しみにしていた公演。


一幕


メリッサ(演・遠藤久美子)

遠藤さん、第一声からメリッサだった!
高めの声で綴られていく少女期のやりとり。


アンディーから届いた手紙を読むメリッサ。

つまんない、うんざり!しーらない!

彼女の心の声が聞こえてきそう!

無邪気で天真爛漫で、彼女いわく「性悪女」なのだろうけど愛嬌たっぷりのメリッサ。恋多き早熟な女の子。
少女から女性へと花開いていく瞬間というのが、これでもかと伝わってくる熱量。蝶のようにひらひらとアンディーをかわし、奔放に生きる彼女の姿が目に焼き付いている。

役柄上どうしても嫌な女になりかねないのに、どこまでも「一人の人間」として憎めない、魅力溢れるメリッサがいた。



アンディー(演・青木玄徳)

この朗読劇の第一声は、アンディーが送った一通の手紙から始まる。

生まれて初めてメリッサに宛てた手紙の、書き慣れない、型にはまったぎこちない文章。
青木さんが舌ったらずに表現するそれは、何度かやり取りを交わすうちに声音や表現が彼らしく形づくられていく。次第に生き生きと綴られていく青い感情。

甘酸っぱいやりとりが微笑ましい思春期の二人。

青木さん自身が評するように、確かに少し頼りなさげなアンディーだったと思う。

メリッサからの返信に舞い上がっては沈み、失敗したらシュンと落ち込むアンディー。育ちのいいお坊っちゃんらしく、世間知らずで聞き分けの良いこども。

寄宿舎生活で培ったあれこれをメリッサに手紙で報告するときの得意気な口調がかわいい。メリッサが呆れていることに気づかない、女心のわからない少年。

マックスマンの舞台挨拶以来、青木さんのくるぶしばっかり見てしまうのだけど、裾が少し短くてばっちりくるぶしがのぞいていたので優勝した。

⌈きょうだい以上には思えないからステディにはなれないのよ」とメリッサに一蹴されてしまうアンディーだけど、弟っぽさに溢れているのでそりゃなれないよな、と思ってしまった。穏やかで優しい青木さんのアンディー。

感情の渦がどっと押し寄せるような熱量の遠藤メリッサとは対照的に、青木アンディーは穏やかなリズムを保っていたので、絶妙なバランスのカップルだったと思う。

青木さんの声のトーンが一定して聞きやすく、台詞がすとんと降りてきて心地よかった。




幼いころからずっと続けてきた手紙のやりとりの中でなら、二人は本音で会話が出来る。

⌈手紙に自分を乗せて、相手へ自分の全部を送る」と言うアンディー。
⌈そんな紙切れよりも生身のアンディーに会いたい」と主張するメリッサ。それなのに、生身のアンディーにいざ会ってみても、肩越しに手紙の中の彼を探してしまうのだと言う。

二人の間に生じたわずかなねじれは、成長するほど深刻なものへと発展していく。



二幕



二幕が始まり、赤い口紅をさした遠藤さんが登場したとき思わず息を飲んだ。

少女から円熟した大人の女性へ。

アンディーから届いたクリスマスや年始の挨拶に、気にくわないような、興味もないような、妬ましいような表情を覗かせながら目を通す。

アンディーは家庭を持ち、法曹界デビューを経て上院議員まで上り詰めていた。一方でメリッサも結婚し、画家として評価され、華々しく活躍していた。しかし一転、ドラッグやアルコールに溺れ、夫や子供たちとは泥沼離婚。メリッサは転落人生の真っ只中にいた。

アンディーから届く手紙もメリッサ個人へと宛てた特別感は薄れ、やがて形式ばったものが混じるようになり怒るメリッサ。


くるくるとめまぐるしく変わる表情が魅力的だった一幕のメリッサとはうって変わり、女の情念が伝わる二幕。

ときにお酒の入ったグラスを持って泥酔状態で、ときにドラッグで躁鬱になりながら、彼女はアンディーへとペンを走らせる。


普通の椅子に座っているのに、安楽椅子に腰かけているような錯覚に陥るくらい、彼女の世界に引き込まれた。年齢を重ねてやつれ、精神を病んでしまったメリッサなのに、とても美しいと思った。



晩年、二人は始めて結ばれる。50年越しに初恋が成就し、秘密の逢瀬を重ねる二人。アンディーへの依存が深まるメリッサと、のらりくらりとかわしているようでいて彼女を振りほどけないアンディー。

演者によって抱くアンディー像がまったく異なることを個人的にいちばん実感したのがこの場面でした。


いよいよメリッサとアンディーの関係が世間へと明るみになり、記者に詰め寄られるメリッサ。
アンディーを頼るも、何を言っても「無視」と言い、逃げ回るアンディー。

青木アンディーは遠藤メリッサに対して強気になれない雰囲気が滲み出ていて、メリッサと一緒に困惑しながら、なんとか体裁を繕おうとオロオロ狼狽える感じが人間臭くてとても良かった。情に訴える余地がありそうなアンディー。

このやりとりを観ていて、久保田アンディーは「無視」の声音がぴしゃりと冷たくて、こんなときばっかりはね除けて本当にずるい男だな~!って沸き散らかしたのを思い出した。

不倫騒動以来、関係を絶ったアンディーとメリッサ。60を過ぎ、メリッサは故郷へと戻り療養生活へ。それを知ったアンディーはメリッサの母親を通じて会いに行くことを彼女へ告げる。しかしアンディーを拒むメリッサ。

メリッサから最後の手紙がアンディーに届き、彼は最後の手紙を綴る。


泣きじゃくる子供のようなラストシーンのモノローグ。
顔を合わせることはなくても、手紙によって寄り添い、彼女を長年支えてきた穏やかな優しさ。

公演全体を通して、アンディーの言葉はメリッサへのやわらかな愛に満ちていて、「愛を込めて」という台詞にたしかな重みがあった。半身というよりも姉を亡くした感覚に近いような気がする(なにしろ弟みがすごいので………)


このとき、手紙に目を落としていたメリッサが劇中で初めて顔を上げ、アンディーを真正面から見据える。アンディーからの言葉を受け、照れたような、慈しむような声音で応えるメリッサに涙が止まらなくなってしまった。


カーテンコール



終演後、ライトが灯り、顔を上げた二人の表情が対照的でした。演じきって晴れやかな表情の遠藤さんに対し、かなり消耗していた青木さん。

カーテンコールの恒例(?)でアンディー役のキャストがメリッサ役をエスコートして登場するのだけど、青木さんが遠藤さんと腕を組んだまま舞台上に置いてあった水を一気飲みしたので客席がざわついたし、青木さんのあまりの狼狽ぶりに遠藤さんも笑ってた。(かわいい)



2015年、2016年と2パターンのカップルを観て、演者によって役の解釈は千差万別だと改めて感じた「ラブ・レターズ」。演じる人の性質や演技の切り口によって、同じ脚本から全く違う人物像に見えるのも興味深い。

正直に言うと青木さんの晩年アンディーの解釈が斬新でちょっと面白かった。青木さんの思う還暦、老けすぎでは


久保田さんの演じたアンディーの先入観があったので、一幕は思春期真っ只中のやんちゃ小僧が出てくるかな?と思ったら、青木さんのアンディーは弟気質の穏やかな優等生で本当に驚いた。
1月にやっていた松田凌くん&内田理央ちゃんのカップルも観てみたかったなあ。


PARCO劇場は閉館となってしまうけれど、「ラヴ・レターズ」はずっと続いていってほしい。


このまま500公演を迎えられますよう、愛を込めて。


500回目のアニバーサリー公演では役所さんと大竹しのぶさんの初演カップルが観てみたいなあ、なんて。


親愛なる、から始まる手紙はいいぞ。

朗読劇「ラヴ・レターズ 2015 WINTER SPECIAL」(久保田悠来×映美くらら)感想

「ラヴ・レターズ~2016 The Climax Special~」(青木玄徳さん&遠藤久美子さん)の観劇中、昨年観た久保田悠来さん&映美くららさん版のフラッシュバックが止まらなかったので、記憶の整理をかねて記事を分けることにしました。


►青木さん×遠藤さん版の感想


※この記事は「ラヴ・レターズ 2015 WINTER SPECIAL」についての備忘録です※






■STORY

幼馴染のアンディーとメリッサ。
自由奔放で感覚人間のメリッサ。
真面目でいつも何かを書いているアンディー。
思春期を迎えて彼らは一番近い異性としてお互い十分相手を意識しはじめる。
しかし、ついに決定的に結ばれるチャンスを迎えた夜
二人は友達以上にはなれない自分たちを発見する。
大学を出た二人はそれぞれ結婚し、まったく別の道を歩き始める。
海軍を経て法曹界に入り上院議員まで登りつめるアンディー。
アートの道に進んだものの行き詰まって精神的破綻をきたすメリッサ。
久しぶりに再会した二人は別々に過ごした日々を取り戻すかのように、
お互いを激しく求め合う。
しかし結ばれるには、時は余りにも遅すぎた。


 2015年初冬、ブルーシアターが現在の「Zeppブルーシアター六本木」へと改称し、そのオープニング公演のひとつがこの「ラヴ・レターズ」だった。

ライブ・エンタテインメント8社が共同運営!「Zeppブルーシアター六本木」来年1月オープン。 | エンタステージ

もともとはPARCO劇場で長年上演されている作品で、わたしが観劇したのはどうやら443公演目に当たるらしく、*1少し身構えたのを覚えている。



広いステージの中央に丸くて小さなテーブルがあり、それを挟んで椅子が二つ。
とてもシンプルな舞台装置。アンディーとメリッサを演じる二人はそこに腰掛け、彼らの手紙のやり取りをわたしたちに明かしてくれる。

演者の声、表情、台本のページを繰る音だけで表現される、二人の一生を通したやりとり。少年期からやがて青年へ、そして晩年へ。
二人のやりとりは一方が欠けてしまうまで続いていく。


静謐さすら感じる空気の中、ただただ圧倒された。
あるときは微笑ましく、あるときは激情的に、声と表情のみで紡がれていく物語。


そこそこ長いおたく人生の中でも「他人の一生」を演じる俳優さん・女優さんを見る機会というのはそう多くないので、とても貴重な体験になった。




久保田さん演じるアンディーは、ぶっきらぼうでまっすぐで、幼馴染みのメリッサに淡い初恋を抱いている。彼女が他の男の子と親しくしていたことを知るとむくれてしまうような可愛らしい少年。
真面目だけど、どこかやんちゃで年相応。彼の持ちうる精一杯で、メリッサに「愛を込めて」手紙を書いていた少年期のアンディー。


一方、映美さん演じるメリッサは、奔放で勝ち気で気まぐれで、アンディーよりずうっと上手。アンディーを軽くあしらい、“ワルイコト”に憧れる年頃の女の子。

やがて二人は成長し、すれ違い、それぞれ別のパートナーと結ばれる。中盤はお互いによる幸せ自慢と見栄の張り合いが展開される。


出世を経て分別のついた大人となってゆくアンディー。保身からメリッサを避け、体裁ばかりを気にかける。一方、アートの世界で成功を収めたものの、ドラッグやアルコールに溺れ、精神的に壊れてしまうメリッサ。晩年はアンディーに依存する。

結ばれたと思えばすれ違い、それを重ねてきた二人の一生。そんな彼らの関係は、メリッサの死によって幕引きを迎える。

メリッサの訃報を受けたアンディーは、最後の「ラヴ・レター」をしたためる。二人で紡いできたやり取りが事切れる瞬間、綴られるアンディーのモノローグ。
メリッサの命の灯火が消えゆくさまと重なるように、彼らを照らしていたスポットライトが静かにフェードアウトする。

アンディーは半身であるメリッサを喪った慟哭とともに、メリッサへの積年の想いを吐露する。声を詰まらせ、それを繕いながら、後悔に涙するアンディー。
わたしは大人の男の人が泣くのを見たことがない。だけど、こんなふうに感情を押し殺し、繕いながら泣くのだろうと思った。

メリッサとの手紙のやりとりが、アンディーの行く先に灯る光であったことをわたしたちは知る。


「手紙は自分自身なのだ」としばしば口にしていたアンディー。それなら、届けるあてを失った「手紙」は、いったいどこへ行き着くのだろう。




終演後に演出家の青井陽治さんを交えたアフタートークがあったのだけど、アンディーの一生を演じきって喉を枯らしてしまった久保田さんが印象的でした。
いつも飄々としている人だから、そんな瞬間に立ち合えることが幸福だと思った。


前半はコミカルで、股間が肉離れ!」みたいな台詞を生き生きと演じていた動の芝居。後半、ぐっと低いトーンで大人になったことを感じさせる静の芝居。地位や体裁・プライドに縛られ、公私ともに成功していて傍目には幸せそうなのに、どこか閉塞感のある晩年。そして終盤のモノローグへ。幾重にも色を変えて展開される彼の芝居に引き込まれた。


久保田さんが演じたアンディーの一生を、きっとこの先も思い出すことだろう。


ハッピーエンドの幕引きではないけれど、心地のよい残響がしばらく残る作品でした。


お手紙を出そう!と書き出し始めると、書きたいことがたくさんありすぎてまとまらないので手紙は苦手なのだけど、どうしても「親愛なる」から始まる手紙を書きたくて、観劇後はなが~~~~い手紙を書いた思い出。

*1:初演カップルは役所広司さん・大竹しのぶさん

映画「ライチ☆光クラブ」感想

 映画『ライチ☆光クラブ』観てきました。



 池袋HUMAXシネマズでは、劇場ロビーにゼラとジャイボの劇中衣装が展示されていました。



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 漫画版をおおむね忠実に再現してはいるものの、映画版『ライチ☆光クラブ』は陽キャ映画の雰囲気がラストシーンまでどうしても拭えず、個人的にはキャラクターの再現度が異様に高い別の作品という印象を抱きました。



 漫画版『ライチ☆光クラブ』は、少年たちの美しいグランギニョル=残酷劇に至るまでの物語。
 夜な夜な廃墟に集う9人の少年たち、“甘美なる機械”ライチの完成、彼らの“崇高なる目的”のために誘拐された少女・カノン。彼女を巡り生じる軋轢、そして光クラブの崩壊。漫画版では『ライチ☆光クラブ』の前日譚として、小学生時代のゼラやタミヤを描いた『ぼくらのひかり☆クラブ』が刊行されています。


 映画版では『ぼくらのひかり☆クラブ』からいくつかのエピソードを引用しているのですが、光クラブメンバーの学校生活では外部生徒との交友がそれなりにあることが描写されているため、光クラブから逃げられないという強迫観念はだいぶ薄味に見えました。光クラブが消滅して困るメンバー、いる?(いなそう)



キャスト別雑感

 公式からビジュアルが出た時点でジャイボ……美………と思っていたのですが、期待以上でした。


ジャイボ(演・間宮祥太朗

 キャスト発表の時点で、あまりイメージのない間宮さんがジャイボ?!と驚いたのですが、めちゃくちゃ杞憂でした。

 映画の中には二次性徴に抗い、敗れて諦観するジャイボがいました。

 「キャハッ☆」が独特のイントネーション。目の奥が常に憂いを帯びていて、光クラブの誰よりも大人びた少年。ゼラを含めた光クラブのメンバーをチェス駒に、ジャイボ自身をプレイヤーに揶揄する台詞があるけど、間宮さんのジャイボは正しく超越者として描かれていた印象です。


 ゼラ役の古川さんより間宮さんのほうが身長が高いので、ゼラと向き合ったときの身長差が絶妙でした。ゼラの身長を超え、声変わりが始まり、ゼラの興味がカノンへと移ってしまったことに激しく憎悪を燃やすジャイボ。彼はきっと自分の中に醜い臓物が詰まっていることも理解している。

 漫画版ではゼラ以上の狂人として描かれるジャイボだけど、間宮さんの演じるジャイボはどこか狂いきれないままで超然としていて、間宮さんの掠れた声で「もう声変わりが始まってきたよ」って言うの、儚すぎて泣いた。


ゼラ(演・古川雄輝

 姫カット眼鏡が似合いすぎる。キラキラ王子様のイメージが強い古川さんが真性のドクズを演じているので、良い声で罵倒されるニコが羨ましかったです。

 見ていて吐き気がするほどのクズをキレッキレに演じていらっしゃるのですが、流石にゲロ→失禁→内臓びろんのコンボ(原作準拠)は古川さんのイメージ的にNGではないのでしょうか……

 帝王然としているゼラが本当はどうしようもなく凡人で、他愛もない動機からタミヤたちの光クラブを乗っ取ったと明かされるエピソードが改変され、映画版では生来おかしな子供として描かれています。漫画版の“愚かで可哀想なゼラ様”としての側面は失われ、ただただ自業自得な独裁者としての最期を迎えているのが痛々しかった。



タミヤ(演・野村周平

 タミヤもジャイボ同様、漫画版よりずっと大人びた印象を受けました。「真実の弾丸」の二つ名にふさわしい活躍っぷり。ゼラよりモテる設定には納得しかないし、カノンはライチを捨ててタミヤと逃避行したほうが間違いなく幸せになれる。

 海辺のシーンでダフやカネダとはしゃいでいるのが中学生っぽくてとてもかわいかった。

 パチンコの名手という設定がなくなり、武器が釘ガンに改変されたことで、ダフの処刑シーンが非常にアッサリになってしまっていたのが個人的に少し残念でした。


ニコ(演・池田純矢

 どのシーンも素晴らしくニコでした。誰よりもアインツであれ。

 常に劣等感に苛まれていて、漫画のニコのようにどんでん返しも与えられず、惨めに人生を終えるニコがとても悲しかった。最期くらい描写してくれ!

 池田純矢さんの怪演!えぐりだした片目をゼラに差し出すシーン、鬼気迫る表情に背筋が寒くなりました。


雷蔵ちゃん(演・松田凌

 かわいいの権化。鼻歌ふん♪ふん♪しながらお裁縫してるの、オカマ力が高すぎる。カノン役の中条あやみさんが現場入りするまで、雷蔵ちゃんがちやほやされていたというエピソード*1にも納得。
漫画版の「顔だけはやめて!」のシーンが個人的に好きなので、映画版でもこの台詞が聞けて満足でした。


ヤコブ(演・岡山天音)、カネダ(演・藤原季節)、ダフ(演・柾木玲弥

 踏んだり蹴ったり三人衆、というかんじ。(まとめてごめんなさい)

 それぞれ最期が改変されていて、カネダがいちばん踏んだり蹴ったり感あった。ダブの例のシーンは(ダフの荒い息遣い)って字幕なら絶対に出てたと思うし、熱演でした。


デンタク(演・戸塚純貴)

 ライチに「自分は人間」というプログラムを書き加えた張本人。「美しい」の概念をライチに教え込むシーンでのママみの強い口調がかわいかった。

 ライチがカノンを誘拐してきたシーン、ほくそ笑むゼラ様の後ろでガッツポーズをしながら菩薩のような顔で喜んでいて、思わず観ているこちらの表情筋がゆるゆるになりました。


カノン(演・中条あやみ

 映画版カノンはメンタルが強く芯のある女の子という印象。
 美少女×ロボット×廃工場。耽美だ~~。ゼラの言う「廃墟の恋人」が、中条さん演じるカノンとライチにとても似合っていました。華奢で清廉で、漫画版のカノンそのままの美少女感。

 しかしカノンとライチに割かれる尺の少なさよ。唐突に登場するオルガン、唐突なレクイエム、唐突なライチへの「好きよ」、ええ…………カノンって実は惚れっぽいのか……………

 ラスト付近の連続グロコンボは中条さん演じるカノンの美しさで乗りきった感があります。



まとめ

 一度原作を読んだことがあると舞台設定に若干の違和感を覚えるかもしれませんが、今をときめく若手俳優たちが考えつくかぎりグロテスクに最期を迎えるさまは見ていて圧巻ですし、何より血みどろの中で中条あやみさんの清廉さが際立ちます。ややグロが平気ならぜひ観てほしい作品。(という着地)





舞台「パラノイア★サーカス」感想

 3月2日マチネを観劇しました。

 舞台『パラノイア★サーカス』は少年社中と東映の初のコラボプロジェクトらしく、東映特撮作品の出演者がキャストの多数を占めているのですが、なんといっても少年社中の主宰を務める演出・脚本家の毛利亘宏さんがスーパー戦隊シリーズ仮面ライダーシリーズの脚本をいくつも手掛けていたり、社中メンバーの井俣太良さんが『仮面ライダードライブ』へ出演していたりと、社中作品とニチアサをどちらも齧っている身からすると、なんとも満を持して感のあるコラボだったりします。


 パンフレットや随所のインタビューによると、この公演が旗揚げというか、“第一弾”であるような書き方がなされているので、第二弾、三弾と続いていくような息の長いプロジェクトになったら嬉しいです。



 
 社中作品のキービジュアルはどの作品も独特の色彩感が美しく、毎公演ビジュアルが出るのをとても楽しみにしているのですが、『パラノイア〜』に関しては完全にひとめぼれでした。タイムラインに流れてきた宣伝ビジュアルがあまりにも好みすぎて、負けたよ〜と思いながら流れるようにチケットを抑え、勢いだけで劇場に向かった覚えがあります。

 キービジュアルのみならず登場人物も最高なのですが、その素晴らしいビジュアルのなかでもとりわけ心を惹かれたのが顔の半分をゴールドの星型リボンで飾られたアルセーヌ・ルパン役、鈴木勝吾さんでした。好き……

https://youtu.be/9jZAPJdUfik


 キービジュアルを見て爆上がりしたわたしが劇場へ行く決定打となったのは、『パラノイア★サーカス』公式サイト、【キャスト一覧】の写真に施されたとある仕掛けでした。

 瞳を手で覆い隠した写真が一様に並ぶキャストビジュアルの、ひとりひとりの登場人物にカーソルを合わせると、手で覆い隠されていた瞳が静かに見開かれる。まるで、夢から覚醒するみたいに。


 「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」




 以下ネタバレです。







雑感

パラノイア★サーカス』―それは、孤島を本拠地とするサーカス団。
見世物は極上の『謎』。

奇妙奇天烈なパフォーマーたちは、謎に満ちた狂気と現実の境目を疾走する。
稀代の大怪盗『カイジン20面相』がパラノイア★サーカスから“あるもの”を盗み出した。
それは『謎』そのものだった。

謎は世界から消え去り、世界は音を立てて崩れ去っていく...。

だが、そこに立ち上がる男がいた。ただ彼は観客だった。
その観客は小説家に憧れ『物語』そのものを愛していた。
彼は依頼を受け、謎のなくなった世界の『謎』を取り戻していく。

消えかかる世界を守り抜くことができるのか?
カイジン20面相の正体は?!
パフォーマーたちの『パラノイア(妄想)』はステージの中で混ざり合い溶け合い、
現代の狂気を映し出す壮大なパノラマへと姿を変える。

 『パラノイア★サーカス』は、小説家の主人公が自ら生み出したキャラクターに翻弄され、やがて彼らによってその妄想世界を崩されていく、というストーリー。

 小澤亮太さん演じる江戸川乱歩を軸に、いくつもの仕込まれたミスリードが終盤に向かってひとつずつ解かれていくさまは見ていて痛快でした。


 サンシャイン劇場の板の上、縦横いっぱいに組まれたセットはリアルなサーカステントを連想させ、華やかな衣装と怪しげな照明を纏ったパフォーマーたちが舞台上をめまぐるしく行き交うさまは、サーカスのショー・パレードのような高揚感がありました。

 なにより口上が!「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」から始まり「パラノイアサーカス!!」で終わる一座の口上があるのですが、それが劇伴も相まってしびれるほど格好良かった!!


 ところどころに挟まれるギャグ(井俣さんのターン、毎公演やってると思うと凄すぎる!)やアドリブの安心感が凄まじく、アホの明智やナミコシ警部&ナカムラ刑事の存在が、次第に不穏さを増していく物語の清涼剤でした。



 最終的には張られた伏線をきれいに回収し、物語は大団円を迎えます。仮面ライダーシリーズの最終回のような後味は、この作品が東映コラボであることをふと思い出させてくれます。DVDには後日談が収録されるそうです。買うしかない!




 妄想の世界から一度は脱却したはずの主人公が『パラノイア★サーカス』一座に回帰するのは、視点を変えればバッドエンドのようであったり、ハッピーエンドの根底には不穏さが見え隠れしていたり、思うところのある終幕だったのですが、それも含めて「極上の謎」ということで。







登場人物について

江戸川乱歩(演・小澤亮太


 ストーリーテラーと思いきや、謎の中核を担う江戸川乱歩

 物語にも登場人物たちにも翻弄され、苦悩する場面が非常に多い印象。前半の矢継ぎ早にセリフをまくしたてるシーンは圧巻でした。小澤さんの静と動のメリハリの付け方が見ていて非常に気持ちよかったです。

 鈴木さん演じる金ぴかルパンとの殺陣がかっこよすぎる!小澤さんの代表作・ゴーカイレッドを彷彿とさせる回し蹴りを生で拝見できて嬉しかったです。(当方はゴーカイジャーが大好きです)



コバヤシ少年(演・松田凌


宵の明星、家路を急ぐわらべが笑う!(ばきゅーん)

 観客に一番近い目線を持つであろうコバヤシ少年。

 松田凌くん、身のこなしがしょうがくごねんせい…………。あちこち跳びはねるので、羽織った上着がひらひらひらひら、白のハイソックスとともに視界を揺らすので目の毒でした。


 「退屈な日常から脱却したい」と願ってやまないコバヤシ少年。終盤、物語を終わらせまいと、脱却したかったはずの日常を取り戻すべく、何度も“やり直し”を繰り返すシーンが印象的でした。

 物語の始まりの台詞から、もう一度やり直そう──
 何度も何度もやり直しを繰り返すたび、コバヤシ少年の台詞には次第に嗚咽が混じり、言葉尻が崩れて消えてしまいそうで切なくて、『パラノイア★サーカスの妄想世界を終わらせたくないコバヤシ少年』と、舞台をまだ観ていたい観客の感情が、“やり直し”のたびに共鳴しているようでした。



アルセーヌ・ルパン(演・鈴木勝吾)


 ルパン様のどんでん返し!

 キャスト一覧のビジュアルに近いルパンを密かに期待していたら、舞台上には頭のてっぺんから爪先まで金ぴかのアルセーヌ・ルパンがいて度肝を抜かれました。おまけに舌は緑。癖が強いんじゃ~~~

 殺陣で翻るマントと、カーテンコールのお辞儀で恭しくシルクハットを抑える仕草がまさに黄金紳士降臨という感じで大好きです。立ち回りや佇まいが天下一品、シニカルに主人公を翻弄する掴み所のないアルセーヌ・ルパン、最高でした。声が通る通る!

 現れては場(と江戸川乱歩)を翻弄して去っていく、道化のようでかなりのキーマンで、物語のジョーカー的存在。

 仕込みステッキを両手で構えたときの表情が素敵すぎたので、DVDではどうにかアップにしていただきたいです。






 パンフレットと舞台衣装でほとんどの登場人物がマイナーチェンジをしている中で、イン獣だけまったく互換性のない衣装(パンフやビジュアルではモダンガール風の女性/舞台衣装は獣の着ぐるみ)をしているのが引っかかっていたのですが、それも結末を知るとなるほど~~!というアハ体験。

 サーカス団の口上「恨みつらみも、心の本に書き記す」もしっくりきた。これを踏まえてもう一度観たい!