はきだめにつる

▶ 22.06.21 日プS1関連エントリを下げました。今までご覧くださりありがとうございました。

映画「ライチ☆光クラブ」感想

 映画『ライチ☆光クラブ』観てきました。



 池袋HUMAXシネマズでは、劇場ロビーにゼラとジャイボの劇中衣装が展示されていました。



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 漫画版をおおむね忠実に再現してはいるものの、映画版『ライチ☆光クラブ』は陽キャ映画の雰囲気がラストシーンまでどうしても拭えず、個人的にはキャラクターの再現度が異様に高い別の作品という印象を抱きました。



 漫画版『ライチ☆光クラブ』は、少年たちの美しいグランギニョル=残酷劇に至るまでの物語。
 夜な夜な廃墟に集う9人の少年たち、“甘美なる機械”ライチの完成、彼らの“崇高なる目的”のために誘拐された少女・カノン。彼女を巡り生じる軋轢、そして光クラブの崩壊。漫画版では『ライチ☆光クラブ』の前日譚として、小学生時代のゼラやタミヤを描いた『ぼくらのひかり☆クラブ』が刊行されています。


 映画版では『ぼくらのひかり☆クラブ』からいくつかのエピソードを引用しているのですが、光クラブメンバーの学校生活では外部生徒との交友がそれなりにあることが描写されているため、光クラブから逃げられないという強迫観念はだいぶ薄味に見えました。光クラブが消滅して困るメンバー、いる?(いなそう)



キャスト別雑感

 公式からビジュアルが出た時点でジャイボ……美………と思っていたのですが、期待以上でした。


ジャイボ(演・間宮祥太朗

 キャスト発表の時点で、あまりイメージのない間宮さんがジャイボ?!と驚いたのですが、めちゃくちゃ杞憂でした。

 映画の中には二次性徴に抗い、敗れて諦観するジャイボがいました。

 「キャハッ☆」が独特のイントネーション。目の奥が常に憂いを帯びていて、光クラブの誰よりも大人びた少年。ゼラを含めた光クラブのメンバーをチェス駒に、ジャイボ自身をプレイヤーに揶揄する台詞があるけど、間宮さんのジャイボは正しく超越者として描かれていた印象です。


 ゼラ役の古川さんより間宮さんのほうが身長が高いので、ゼラと向き合ったときの身長差が絶妙でした。ゼラの身長を超え、声変わりが始まり、ゼラの興味がカノンへと移ってしまったことに激しく憎悪を燃やすジャイボ。彼はきっと自分の中に醜い臓物が詰まっていることも理解している。

 漫画版ではゼラ以上の狂人として描かれるジャイボだけど、間宮さんの演じるジャイボはどこか狂いきれないままで超然としていて、間宮さんの掠れた声で「もう声変わりが始まってきたよ」って言うの、儚すぎて泣いた。


ゼラ(演・古川雄輝

 姫カット眼鏡が似合いすぎる。キラキラ王子様のイメージが強い古川さんが真性のドクズを演じているので、良い声で罵倒されるニコが羨ましかったです。

 見ていて吐き気がするほどのクズをキレッキレに演じていらっしゃるのですが、流石にゲロ→失禁→内臓びろんのコンボ(原作準拠)は古川さんのイメージ的にNGではないのでしょうか……

 帝王然としているゼラが本当はどうしようもなく凡人で、他愛もない動機からタミヤたちの光クラブを乗っ取ったと明かされるエピソードが改変され、映画版では生来おかしな子供として描かれています。漫画版の“愚かで可哀想なゼラ様”としての側面は失われ、ただただ自業自得な独裁者としての最期を迎えているのが痛々しかった。



タミヤ(演・野村周平

 タミヤもジャイボ同様、漫画版よりずっと大人びた印象を受けました。「真実の弾丸」の二つ名にふさわしい活躍っぷり。ゼラよりモテる設定には納得しかないし、カノンはライチを捨ててタミヤと逃避行したほうが間違いなく幸せになれる。

 海辺のシーンでダフやカネダとはしゃいでいるのが中学生っぽくてとてもかわいかった。

 パチンコの名手という設定がなくなり、武器が釘ガンに改変されたことで、ダフの処刑シーンが非常にアッサリになってしまっていたのが個人的に少し残念でした。


ニコ(演・池田純矢

 どのシーンも素晴らしくニコでした。誰よりもアインツであれ。

 常に劣等感に苛まれていて、漫画のニコのようにどんでん返しも与えられず、惨めに人生を終えるニコがとても悲しかった。最期くらい描写してくれ!

 池田純矢さんの怪演!えぐりだした片目をゼラに差し出すシーン、鬼気迫る表情に背筋が寒くなりました。


雷蔵ちゃん(演・松田凌

 かわいいの権化。鼻歌ふん♪ふん♪しながらお裁縫してるの、オカマ力が高すぎる。カノン役の中条あやみさんが現場入りするまで、雷蔵ちゃんがちやほやされていたというエピソード*1にも納得。
漫画版の「顔だけはやめて!」のシーンが個人的に好きなので、映画版でもこの台詞が聞けて満足でした。


ヤコブ(演・岡山天音)、カネダ(演・藤原季節)、ダフ(演・柾木玲弥

 踏んだり蹴ったり三人衆、というかんじ。(まとめてごめんなさい)

 それぞれ最期が改変されていて、カネダがいちばん踏んだり蹴ったり感あった。ダブの例のシーンは(ダフの荒い息遣い)って字幕なら絶対に出てたと思うし、熱演でした。


デンタク(演・戸塚純貴)

 ライチに「自分は人間」というプログラムを書き加えた張本人。「美しい」の概念をライチに教え込むシーンでのママみの強い口調がかわいかった。

 ライチがカノンを誘拐してきたシーン、ほくそ笑むゼラ様の後ろでガッツポーズをしながら菩薩のような顔で喜んでいて、思わず観ているこちらの表情筋がゆるゆるになりました。


カノン(演・中条あやみ

 映画版カノンはメンタルが強く芯のある女の子という印象。
 美少女×ロボット×廃工場。耽美だ~~。ゼラの言う「廃墟の恋人」が、中条さん演じるカノンとライチにとても似合っていました。華奢で清廉で、漫画版のカノンそのままの美少女感。

 しかしカノンとライチに割かれる尺の少なさよ。唐突に登場するオルガン、唐突なレクイエム、唐突なライチへの「好きよ」、ええ…………カノンって実は惚れっぽいのか……………

 ラスト付近の連続グロコンボは中条さん演じるカノンの美しさで乗りきった感があります。



まとめ

 一度原作を読んだことがあると舞台設定に若干の違和感を覚えるかもしれませんが、今をときめく若手俳優たちが考えつくかぎりグロテスクに最期を迎えるさまは見ていて圧巻ですし、何より血みどろの中で中条あやみさんの清廉さが際立ちます。ややグロが平気ならぜひ観てほしい作品。(という着地)





舞台「パラノイア★サーカス」感想

 3月2日マチネを観劇しました。

 舞台『パラノイア★サーカス』は少年社中と東映の初のコラボプロジェクトらしく、東映特撮作品の出演者がキャストの多数を占めているのですが、なんといっても少年社中の主宰を務める演出・脚本家の毛利亘宏さんがスーパー戦隊シリーズ仮面ライダーシリーズの脚本をいくつも手掛けていたり、社中メンバーの井俣太良さんが『仮面ライダードライブ』へ出演していたりと、社中作品とニチアサをどちらも齧っている身からすると、なんとも満を持して感のあるコラボだったりします。


 パンフレットや随所のインタビューによると、この公演が旗揚げというか、“第一弾”であるような書き方がなされているので、第二弾、三弾と続いていくような息の長いプロジェクトになったら嬉しいです。



 
 社中作品のキービジュアルはどの作品も独特の色彩感が美しく、毎公演ビジュアルが出るのをとても楽しみにしているのですが、『パラノイア〜』に関しては完全にひとめぼれでした。タイムラインに流れてきた宣伝ビジュアルがあまりにも好みすぎて、負けたよ〜と思いながら流れるようにチケットを抑え、勢いだけで劇場に向かった覚えがあります。

 キービジュアルのみならず登場人物も最高なのですが、その素晴らしいビジュアルのなかでもとりわけ心を惹かれたのが顔の半分をゴールドの星型リボンで飾られたアルセーヌ・ルパン役、鈴木勝吾さんでした。好き……

https://youtu.be/9jZAPJdUfik


 キービジュアルを見て爆上がりしたわたしが劇場へ行く決定打となったのは、『パラノイア★サーカス』公式サイト、【キャスト一覧】の写真に施されたとある仕掛けでした。

 瞳を手で覆い隠した写真が一様に並ぶキャストビジュアルの、ひとりひとりの登場人物にカーソルを合わせると、手で覆い隠されていた瞳が静かに見開かれる。まるで、夢から覚醒するみたいに。


 「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」




 以下ネタバレです。







雑感

パラノイア★サーカス』―それは、孤島を本拠地とするサーカス団。
見世物は極上の『謎』。

奇妙奇天烈なパフォーマーたちは、謎に満ちた狂気と現実の境目を疾走する。
稀代の大怪盗『カイジン20面相』がパラノイア★サーカスから“あるもの”を盗み出した。
それは『謎』そのものだった。

謎は世界から消え去り、世界は音を立てて崩れ去っていく...。

だが、そこに立ち上がる男がいた。ただ彼は観客だった。
その観客は小説家に憧れ『物語』そのものを愛していた。
彼は依頼を受け、謎のなくなった世界の『謎』を取り戻していく。

消えかかる世界を守り抜くことができるのか?
カイジン20面相の正体は?!
パフォーマーたちの『パラノイア(妄想)』はステージの中で混ざり合い溶け合い、
現代の狂気を映し出す壮大なパノラマへと姿を変える。

 『パラノイア★サーカス』は、小説家の主人公が自ら生み出したキャラクターに翻弄され、やがて彼らによってその妄想世界を崩されていく、というストーリー。

 小澤亮太さん演じる江戸川乱歩を軸に、いくつもの仕込まれたミスリードが終盤に向かってひとつずつ解かれていくさまは見ていて痛快でした。


 サンシャイン劇場の板の上、縦横いっぱいに組まれたセットはリアルなサーカステントを連想させ、華やかな衣装と怪しげな照明を纏ったパフォーマーたちが舞台上をめまぐるしく行き交うさまは、サーカスのショー・パレードのような高揚感がありました。

 なにより口上が!「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」から始まり「パラノイアサーカス!!」で終わる一座の口上があるのですが、それが劇伴も相まってしびれるほど格好良かった!!


 ところどころに挟まれるギャグ(井俣さんのターン、毎公演やってると思うと凄すぎる!)やアドリブの安心感が凄まじく、アホの明智やナミコシ警部&ナカムラ刑事の存在が、次第に不穏さを増していく物語の清涼剤でした。



 最終的には張られた伏線をきれいに回収し、物語は大団円を迎えます。仮面ライダーシリーズの最終回のような後味は、この作品が東映コラボであることをふと思い出させてくれます。DVDには後日談が収録されるそうです。買うしかない!




 妄想の世界から一度は脱却したはずの主人公が『パラノイア★サーカス』一座に回帰するのは、視点を変えればバッドエンドのようであったり、ハッピーエンドの根底には不穏さが見え隠れしていたり、思うところのある終幕だったのですが、それも含めて「極上の謎」ということで。







登場人物について

江戸川乱歩(演・小澤亮太


 ストーリーテラーと思いきや、謎の中核を担う江戸川乱歩

 物語にも登場人物たちにも翻弄され、苦悩する場面が非常に多い印象。前半の矢継ぎ早にセリフをまくしたてるシーンは圧巻でした。小澤さんの静と動のメリハリの付け方が見ていて非常に気持ちよかったです。

 鈴木さん演じる金ぴかルパンとの殺陣がかっこよすぎる!小澤さんの代表作・ゴーカイレッドを彷彿とさせる回し蹴りを生で拝見できて嬉しかったです。(当方はゴーカイジャーが大好きです)



コバヤシ少年(演・松田凌


宵の明星、家路を急ぐわらべが笑う!(ばきゅーん)

 観客に一番近い目線を持つであろうコバヤシ少年。

 松田凌くん、身のこなしがしょうがくごねんせい…………。あちこち跳びはねるので、羽織った上着がひらひらひらひら、白のハイソックスとともに視界を揺らすので目の毒でした。


 「退屈な日常から脱却したい」と願ってやまないコバヤシ少年。終盤、物語を終わらせまいと、脱却したかったはずの日常を取り戻すべく、何度も“やり直し”を繰り返すシーンが印象的でした。

 物語の始まりの台詞から、もう一度やり直そう──
 何度も何度もやり直しを繰り返すたび、コバヤシ少年の台詞には次第に嗚咽が混じり、言葉尻が崩れて消えてしまいそうで切なくて、『パラノイア★サーカスの妄想世界を終わらせたくないコバヤシ少年』と、舞台をまだ観ていたい観客の感情が、“やり直し”のたびに共鳴しているようでした。



アルセーヌ・ルパン(演・鈴木勝吾)


 ルパン様のどんでん返し!

 キャスト一覧のビジュアルに近いルパンを密かに期待していたら、舞台上には頭のてっぺんから爪先まで金ぴかのアルセーヌ・ルパンがいて度肝を抜かれました。おまけに舌は緑。癖が強いんじゃ~~~

 殺陣で翻るマントと、カーテンコールのお辞儀で恭しくシルクハットを抑える仕草がまさに黄金紳士降臨という感じで大好きです。立ち回りや佇まいが天下一品、シニカルに主人公を翻弄する掴み所のないアルセーヌ・ルパン、最高でした。声が通る通る!

 現れては場(と江戸川乱歩)を翻弄して去っていく、道化のようでかなりのキーマンで、物語のジョーカー的存在。

 仕込みステッキを両手で構えたときの表情が素敵すぎたので、DVDではどうにかアップにしていただきたいです。






 パンフレットと舞台衣装でほとんどの登場人物がマイナーチェンジをしている中で、イン獣だけまったく互換性のない衣装(パンフやビジュアルではモダンガール風の女性/舞台衣装は獣の着ぐるみ)をしているのが引っかかっていたのですが、それも結末を知るとなるほど~~!というアハ体験。

 サーカス団の口上「恨みつらみも、心の本に書き記す」もしっくりきた。これを踏まえてもう一度観たい!